富山地方裁判所高岡支部 事件番号不詳 判決
本籍並住居
高岡市小馬出町三十九番地
荒物商
井本和平
当六十年
右の者に対する所得税法違反隠匿物資等緊急措置令違反、重要物資在庫緊急調査令違反臨時物資需給調整法(指定生産資材割当規則)違反被告事件につき当裁判所は検察官事務取扱副検事某関与審理を遂げ次の通り判決する。
主文
被告人を懲役五ケ月及罰金拾万円
に処する。
右罰金を完納しない時は金五百円を一日に換算した期間労役場に畄置する。
但し懲役刑に限り本裁判確定の日から参年間その刑の執行を猶予する。
領置に係る別紙目録記載の証第二六号乃至第四三号並に押収に係る昭和二十四年検領第六四号符号証七号マニラロープ(証第十七号と同一品質)計四十六貫六百匁は之を沒収する。
本件公訴事実中重要物資在庫緊急調査令違反の点は無罪。
理由
被告人は高岡市小馬出町二十九番地に於いて荒物商を営むものであるが、
第一、昭和二十三年七月三十一日其の住居に於いて所得税法の定める七月予定申告を為すに当り、同年一月から六月末日までの所得が二拾一万円以上であつて、年間の所得は、七、八拾万円位と推定されたに拘らず、その申告書に年間の所得を二十万円と虚偽の記載を為し同日高岡税務署長に提出し。
第二、被告人は法定の除外事由がないのに
(一) 昭和二十一年二月十七日現在に於て前記自宅に隠匿物資等緊急措置令別表所定の物資である織物を別紙第一表(隠匿物資等緊急措置令未申告一覽表)記載の通り商工大臣の指定した数量である十五反を超えて三十四反を所有し乍ら同年三月十日迄に地方長官を経由して商工大臣に其の所有数量の報告書の提出を怠り
(二) 1、昭和二十三年十一月一日から同年同月二十三日迄に前後三回に亘つて前記住居に於て愛知県蒲郡町中沢共同商事株式会社から指定生産資材割当規則別表所定の指定生産資材である、マニラ麻ロープ(綱)七十八貫を販売の目的で需要者割当証明書又は販売業者割当証明書の記載するところに従はず且つ之れと引換うることなく十万三千九百三十円で買受けて之を讓り受け
2、昭和二十三年六月二十九日から同二十四年一月十一日迄の間に前記自宅に於て業務上所有して居た指定生産資材割当規則別表所定の指定生産資材である別紙、第二表(無切符販売一覽表)記載の畳縫糸等を販売先欄記載の者に対し需要者割当証明書又は販売業者割当証明書の記載するところに従わず、且之と引換ふることなく合計金八万五千三百十円で販売し之を讓り渡し
たものである
証拠
判示事実中判示冒頭掲記の点は被告人の当公廷に於ける其旨の供述
一、昭和二十三年三月三十一日附の被告人が高岡税務署長へ提出した七月予定申告書(記録第五十四丁)
一、大藏事務官吉川末郞作成の高岡税務署長あての調査報告書並びに被告人に対する質問調書
一、被告人の検察官に対する第一、二回各供述調書
判示第二の(一)の事実は、
一、被告人の当公廷に於ける判示同旨の供述
一、証第二十六号乃至四十三号の存在
判示第二の(二)の1の事実は、
一、被告人の当公廷に於けるマニラ麻ロープが指定生産資材なることの認識を缺き居りたる旨の点を除き判示同趣旨の供述
一、証第十六号の一(本帳)に於ける判示買受けに関する記載
一、証第十七号の一、二(マニラロープ見本)の存在
判示第二の(二)の2の事実は、
一、被告人の当公廷に於ける判示販売一覽表中マニラ麻ロープに付いては指定生産資材なることの認識を缺き居りたるとの供述を除き判示同趣旨の供述
一、証第三号(昭和二十三年度仕入帳)
証第十五号の一乃至五(昭和二十二年度仕切帳)
証第十六号の二、三(昭和二十一年度本帳)
に夫々判示販売したる旨の記載を綜合して夫々判示の如く認む、
法律の適用
被告人の判示第一の点は所得税法第七十条第一号第二の(一)の事実につき隠匿物資等緊急措置令第一条第十条第二の(二)1需要者割当証明書と引換へないで買受の点は臨時物資需給調整法第一条第一項第四条指定生産資材割当規則第九条第一号第二の(二)2の割当証明書と引換ないで販売の点は臨時物資需給調整法第一条第四条指定生産資材割当規則第八条第一号に各該当するところ、以上は刑法第四十五条前段の併合罪なるを以て同法第十条第四十八条に則り判示第一の罪に付いては懲役刑を選択し其の刑期範囲内に於いて判示第二の(一)、(二)の各罪については執れも罰金刑を選択し罰金等臨時措置法第二条刑法第六条により比照した所定罰金額の合算額範囲内に於いて夫々主文の通り量定処断すべく罰金不完納の場合に於ける労役場畄置の期間については刑法第十八条を適用し之を定め押収に係る昭和二十四年検領第六十四号符号証七号(証十七号と同一品質)沒収については臨時物資需給調整法第七条により証第二十二号乃至第四十三号については刑法第十九条により夫々之を沒収すべく而して、被告人は本件犯行後改悛の情顕著なるを以て刑法第二十五条により右懲役刑については、参年間の刑の執行猶予を為すことを相当とする。
又本件公訴事実中被告人は法定の除外事由がないのに昭和二十三年三月三十一日現在に於いて前記自己の営業に関し重要物資在庫緊急調査令別表所定の物資である綱(昭和二十四年二月五日附追起訴状別添の重要物資在庫緊急措置令による未申告状況一覽表記載の通りの物件)を報告限度一千封度を超えて一万五百六十九封度を所有し乍ら同年四月十日迄に高岡市長に対し其の所有数量を六百十二、五封度と虚偽の事実を記載して報告書を提出したものであると謂うに在れども、其の点につき被告人は右申告当時重要物資在庫品中混合ロープに付いては指定物資に該当しないものと思料し其のものを除いた合計六千四十三封度として報告したる心算たりしが其の申告書に、コンマの打ち損いしたる為め本件公訴事実の如く六百十二、五封度となりたるものにしてこの点についてはその後名古屋商工局より同様重要物資在庫品の報告すべしとの命令ありたる為め前同様六千百二十五封度と報告したりかくの如く高岡市長に対し、右重要物資在庫品の申告を申出たる際コンマの打損いをした為誤つて報告した結果に因りたるものなりと弁疏するにより按ずるに鑑定人岩田文雄の鑑定、証人川端満夫の証言に依れば本件公訴事実中の混合ロープ昭和二十四年検領第六十四号符号証第一号の一(規格五分、八分、一寸)が重要物資等在庫緊急調査令に該当せざることを認め得べく尚其の数量が四千五百二十七封度となり、この数量を右公訴事実の一万五百六十九封度より差引くときは、六千四十三封度となるを以て前記高岡市長に申告したる六百十二、五封度を十倍すると六千百二十五封度となり其の数量相近似するが故に被告人弁疏の如く右申告の際コンマの打損いをしたものと認めるを相当とすべく結局右公訴事実は犯意を欠くものにして犯罪証明十分ならずと認むるを妥当とする依つて其の部分については刑事訴訟法第三百六十二条により無罪の言渡を為す。
尚本件公訴事実中隠匿物資等緊急調査令違反事実中寒冷紗二十二反の部分は鑑定人中野長作の鑑定に依れば、中古品と認め得るを以て該部分に関しては、其の数量を商工大臣に報告を為すことを要せざるものにして従つて該部分に関する公訴事実は犯罪を構成せざるも一罪の一部なるが故に特に無罪の言渡を為さざるものとする。
仍て主文の通り判決する。